米疾病対策センター(CDC)の肥満に関するフォーラムが先週、ワシントンで開かれ、2030年には米国人の42%が肥満になるとの見通しが示された(現在は36%)。「脱肥満」が声高に叫ばれて久しいのに、なぜ肥満は減らないのか。個人の意志が弱いからか。暮らしの環境がそうしているのか。きょうのテーマは「それでも太るのはなぜ?」とした。

42%が肥満

 「大人の3人に1人が肥満」と米国ではよく言われる。体格指数(BMI)=体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数字=が「30」以上の人は7800万人。デューク大(ノースカロライナ州)の研究者らによると、2030年には、「30」以上の人はいまより3200万人増え、全体の42%に達する。米国での肥満は1980、90年代に急増した。そのころの勢いが続けば、50%を上回っていたところで、「増加傾向が鈍った」と言えなくもないらしいのだが、増えていることに変わりはない。

 一方、BMIが「40」以上の極端な肥満の人は現在の6%から、2030年には11%に増える。「40」以上は、身長165センチだと110キロである。肥満は糖尿病や心臓病の原因の一つとなる。肥満の人、極端な肥満の人の増加に伴い、今後20年間で、医療費は5500億ドル(約44兆円)の負担増になるという。デューク大の研究者は「肥満の割合が増えなければ、それだけ節約できるのだ」と訴えた。

意志の弱さは業界の言い訳

 医療問題で政府に助言を行う米医学研究所(IOM)は、478ページに及ぶ肥満解消のための提言をまとめ、これをもとにフォーラムで討論会を開いた。ロイター通信によると、この提言は、肥満を個人の意志の弱さのせいにしてはならないと強調している。「意志の弱さ」は食品業界などが規制を逃れようとするときの言い訳。砂糖入り飲料への課税(ソーダ税)を導入し値段が上がっても、太る人はがまんできずに飲むというものだ。提言は、業界が反発する施策も積極的に行うべきだといっているのだ。

 IOMの研究者は「米国民は何年も、食べ過ぎるな、体を動かせ、などのアドバイスを聞かされ、その間も肥満した。これらのアドバイスが間違っていたわけではない。ではなぜ、太るのか。肥満しやすい環境の中で暮らしているからだ」と指摘した。また、討論会の参加者は「一つの施策では、肥満は解消されない。太りにくい環境づくりが必要」と話した。

歩きたくても歩けない

 「太りにくい環境づくり」としてはたとえば、歩道の整備がある。歩いて行くことができる距離でも、安全な歩道がなければ車を利用する。1977年には、5~15歳の子供の20%が徒歩で通学していたが、2001年には12.5%に減った。宅地開発などの際、優遇税制で歩道や自転車専用レーンの建設を促すべきだという。

 一方、運動は毎日するべきだが、体育の授業が毎日あるのは、小学校の4%、中学校の8%、高校の2%に過ぎない。砂糖入り飲料を遠ざけた学校は多いけれども、それだけでは不十分で、児童・生徒には毎日60分以上の運動をさせるべきだという。

 フォーラムではこのほか、過去10年間、女性の肥満の割合はほぼ横ばいで、増加しているのは男性であることが指摘された。高所得の男性が目立つが、理由は分からないという。また、肥満の増加が止まらない理由の一つとして、人口の高齢化が挙げられた。肥満は45~64歳に多く、この年代が増えれば当然、肥満の割合も高まるというのだ。

(出展: msn産経ニュース 内畠嗣雅)

アメリカ人の食事と肥満